「自分って、何のために働いてるんだろう」
「誰にも必要とされてない気がする」
そんな気持ちを抱えていた時期がありました。

人と関わるのが苦手なわけでも、
仕事に不満があるわけでもなかった。
でもどこか心の中で、**“自分の存在が社会の中で浮いている”**ような気がしていたんです。

そんな中で、タクシーという仕事に出会い、
“誰かのためになる”ことが、どれほど自分の心を満たしてくれるかを知りました。

タクシーの仕事は、ただ運転するだけ──そう思っていた時期もありました。
でも実際に乗務してみると、お客様からの“ありがとう”という言葉が、想像以上に沁みてくるんです。
• 荷物の多い高齢の方に、そっとドアを開けたとき
• 雨の日、傘をさしかけてあげたとき
• 「この道なら早く着けますよ」と一言添えたとき

たったそれだけで、
「今日はあなたに当たって良かったです」
「おかげで間に合いました、ありがとう」
という言葉が返ってくる。

その一つひとつが、“自分の小さな行動が、誰かの助けになった”という実感をもたらしてくれる。

それが、日々の中で少しずつ、自分の存在を肯定してくれるようになったんです。

タクシー業界に入る前は、
「人を支える仕事は、医療や介護のような専門職だけ」だと思っていました。

でも違いました。
• 道が分からず不安そうなお客様を、無言で安心させる運転
• 子ども連れの親御さんの荷物を、さっとトランクに載せてあげる配慮
• 無言のお客様には、静かな時間を尊重する気づかい

こうした**“誰でもできるけど、誰もがやるわけではない”行動**が、
お客様にとっては「助かった」に変わるんです。

タクシーという仕事は、
“今、目の前にいる誰か”の役に立てることの積み重ね。

そこに、資格もスキルも必要ない。
ただ、「丁寧でありたい」「安心してもらいたい」という気持ちがあれば、
自然と“誰かのためになれる”。

そして、それこそが、自分の存在価値を再認識させてくれる瞬間なのです。

転職してからしばらく経ったある日、
常連のお客様がこう言いました。

「このあいだ乗せてもらったとき、ちょっと落ち込んでたんですけど、
運転が静かで気持ちが休まったんですよね。」

自分はただ、いつも通り運転していただけ。
でも、その“いつも通り”が、誰かの救いになっていることもある。

タクシーという仕事は、
決して派手でもなく、目立つ職業でもありません。
でも、日々の中で確かに**「人と社会の橋渡しをしている感覚」がある**んです。

人の役に立つことで、自分の心が整っていく。
「誰かのためになれてよかった」という思いが、
自分自身を支えてくれるようになるんです。

誰かに感謝されたとき、
「また明日も頑張ろう」と自然に思えた。

誰かに頼られたとき、
「自分にもできることがある」と胸を張れた。

それまで、どこか不安定だった“自分という存在”が、
誰かの役に立つことで、少しずつ安定していったんです。

タクシーの仕事には、
• 小さな行動で誰かを助けられる実感
• 人と人の距離をつなぐやさしさ
• 自分が社会の一部として生きているという手ごたえ

があります。

「誰のために働いているのか分からない」
「自分の価値が見えなくなっている」
そんな人にこそ、タクシーという仕事を知ってほしい。

誰かのためになることが、
いつしか“自分の存在を肯定する力”になる。

それを、私はこの仕事で学びました。



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