「タクシー会社を志望した理由は何ですか？」

この質問が来ると思うと、正直、応募するのも気が重かった。
なぜなら、「家から近いから」──それ以外に理由がなかったからです。

かつての私は、転職活動のたびに“立派な理由”を用意しなければと気を張っていました。
「やりがい」「キャリアアップ」「御社の理念に共感」──本音じゃないことを並べて、空虚な面接を繰り返していたんです。

でも、あるタクシー会社の面接では、
「家が近いんですね、それは大きなポイントですよ」と言ってもらえた。
その一言が、ずっと抱えていたプレッシャーを救ってくれました。

転職サイトには、よくこう書かれています。
• 志望動機は論理的に語るべき
• なぜこの会社なのか明確に
• 自分の価値観と会社の方向性をリンクさせて話す

でも、そんな理由がパッと出てこないことって、ありませんか？

私の場合、前職を辞めたのは「通勤が遠くてしんどかったから」。
その反動で、「今度は家の近くで働きたい」というのが正直な気持ちでした。

でも、それをそのまま言ったら「やる気がない」と思われるのでは？
「他でもいいんでしょ」と突き返されるのでは？
──そんな不安で、応募すらためらっていたのです。

勇気を出して受けた面接。
案の定、冒頭で聞かれた「志望動機」の質問。
私は迷った末に、正直にこう答えました。

「家から近くて、通いやすいというのが一番の理由です。
正直、それ以外のことはこれから学んでいきたいと思っています。」

その瞬間、面接官は笑いながら言いました。

「それ、全然いいですよ。
近くに住んでる方の方が出庫もしやすいし、
長く働いてくれる傾向があるんですよね。」

思わず拍子抜けしました。
“近い”というだけの理由を、むしろプラスに捉えてくれた。

そして続けて言われたのは、こんな言葉でした。

「最初はそんな理由でも、やっていくうちに“この仕事の面白さ”って見えてくるもんです。」

その一言で、「自分にもこの仕事、始められるかもしれない」と心から思えました。

面接から数日後、無事採用。
日々の業務が始まると、最初の動機なんて気にしていられないほど、
新しいことの連続でした。
• アプリ配車の操作
• 道やエリアの特徴を覚えること
• お客様との接し方のコツ

最初は右も左も分からなかったけれど、
毎日の業務の中で少しずつ自信がついてきました。

そしてある日、
帰り際にお客様から「ありがとう、あなたの運転で助かりました」と言われた瞬間、
ふと気づいたんです。

「ああ、自分は“誰かの役に立ってる”って、ちゃんと実感できる仕事をしているんだな」

最初はただ家が近いから。
でも今は、「この仕事を続けたい」という気持ちが、自分の中にしっかりある。

面接では見えなかった“本当の志望動機”は、働くうちに自然と生まれてきたんです。

就職活動や転職活動では、
「立派な理由」「正しい動機」が求められているように感じてしまうことがあります。

でも本当は──
• 家から近い
• 通勤がラクそう
• 自分の時間を確保したい
• なんとなく気になる

そんな“等身大の動機”が、最初の一歩には十分なんです。

タクシー業界は、
• 実力主義でスタートの背景を問われにくい
• 通勤のしやすさを重視する人を歓迎する
• 「今どう働きたいか」を受け止めてくれる文化がある

だから、自信を持って「家が近いから」と言っていい。

そしてきっと、
その場所で得た出会いや経験が、
“志望動機以上の意味”を、あとから教えてくれるはずです。



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